噛む回数を増やして食後血糖が下がったという結果を、このサイトは持っていません。4試験のうち、2試験では血糖もインスリンも有意に変化しませんでした。
残る2試験では、測定時点や指標によって結果の向きが変わりました。したがって、「噛めば下がる」とはまとめられません。
むせる、飲み込みにくい、入れ歯が合わない、歯が欠けている、被せ物が取れたまま、顎が痛む。 ひとつでも当てはまる人は、噛む回数を増やす前に歯科医師または嚥下を診ている医療機関へ相談してください。 この記事は、病院に行かなくてよいという意味ではありません。
この記事でわかること
- 咀嚼と血糖を測った4試験の対象と条件
- 血糖とインスリンに差が出た時点
- 研究結果を読むときに外せない限界
- 健診の数字を次の受診へ持っていく理由
読了目安:約8分(本文約4,200字)
血糖とインスリンを測った4つの試験
| 根拠 | 比べた条件 | 対象 | 血糖の結果 | インスリンの結果 |
|---|---|---|---|---|
| E26 | 一口15回と50回 | 健常体重群と過体重群の計41名 | 著者らの結論として影響なし | 6時点すべてで有意差なし |
| E17 | 通常の食べ方と一口30回ほか | 健常者30名(10名ずつ3群) | どの条件でも変化なし | どの条件でも変化なし |
| E27 | 一口15回と40回 | 65歳以上の男性15名 | 食事終了時は高く、後半は低い | 食事終了時は高く、後半は低い |
| E20 | 千切りキャベツとペースト | 健常若年男性19名 | 曲線下面積は差なし。30分は高い | 増加分の曲線下面積が高い |
4件のうち2件は、血糖もインスリンも動いていません。
表の「差なし」は、有意差が出なかったという意味です。全員の数値が同じだったわけではありません。比較条件と測定時点をそろえて読みます。
中心となるE26は、41名のランダム化クロスオーバー試験です。健常体重群と過体重群を対象にしました。第1相では普段の一口量と咀嚼頻度を測り、第2相で一口15回と50回を比べました。
50回条件では、BMIによらず摂取エネルギーが減少しました。確認できた抄録には、減少幅の数値がありません。そのため、効果の大きさは示せません。
血糖とインスリンは、0、30、60、90、120、180分の6時点で測定しました。インスリンは、どの時点も有意に変化していません。抄録には、インスリンが有意でなく上昇したとあります。血糖については、抄録が時点ごとの結果を書いていません。著者らは結論として、咀嚼が食後の血糖とインスリンに影響しなかったと述べています。
上昇の向きだけを有意差とは扱いません。E26では、インスリンは6時点すべてで差が出ませんでした。確認できたのは抄録までで、資金源と利益相反は確認できていません。
次のE17は、著者らがパイロット試験と呼ぶ研究です。健常者30名を10名ずつ3群に分け、460kcalの規定食を使いました。通常の食べ方と、片側咀嚼、早食い、一口30回の1条件を比べました。
E17は、全条件を全員が行う設計ではありません。一口30回では、30分の活性型GLP-1が増加しました。9.9±3.3対8.6±2.1pmol/Lで、p<0.05です。血糖とインスリンは変化していません。
2型糖尿病患者15名の平均年齢は65.9歳でした。一口30回と通常の食べ方を比べています。この患者群では、GLP-1にも差が出ていません。血糖が気になる人に近い集団では、差が消えました。
著者らは、小規模な試験である点を限界に挙げました。抽出処理をせずに測定したため、活性型GLP-1の測定値が高めの可能性も記しています。資金は九州歯科大学の研究費で、著者らは利益相反なしと申告しています。
E26とE17では、血糖とインスリンの両方が動きませんでした。残る2試験は、一部の時点や指標に差が出ています。ただし、一方向の低下ではなく、条件を分けて読む必要があります。つまり、4試験だけでは噛む回数を健診の数字に結びつけられません。
「食後血糖が下がる」は、いつ測ったかで変わる
E27は、65歳以上の男性15名を調べた試験です。一口15回と40回で、同じ人が2条件を経験しました。食事量は2050kJに固定し、3時間追跡しています。
食事終了時は、40回条件のほうが高い結果でした。血糖、インスリン、GIPはいずれもp<0.01です。後半の食後期には3指標とも低く、いずれもp<0.05でした。
同じ試験でも、測定時点によって向きが反転しています。「食後血糖が下がる」だけでは、いつの値かがわかりません。終了時と後半のどちらを指すかで、意味が変わります。E27は、一方向の低下を示していません。
3時間後には、自由に食べる食事も設けました。その摂取量に差はありませんでした。対象は15名で、全員が65歳以上の男性です。著者らは、長期のエネルギー収支を今後の課題としました。
確認できたのは抄録までで、資金源は確認できていません。この結果だけを別の年齢層へ広げることもできません。つまり、いつ測ったかを抜きに、噛めば食後血糖が下がるとは判断できません。
噛んだ条件が有利に見えた試験の、資金源
E20は、健常若年男性19名の試験です。千切りを噛む日と、ペースト状で噛まずに食べる日を比べました。その後、同じエネルギーゼリーを食べ、180分追跡しています。
この比較は、咀嚼回数ではなく食べ物の形を変えています。千切りとペーストという条件差があります。回数を15回と40回で比べたE27とは、設計が異なります。
総GLP-1は、噛んだ条件で3時点に高い結果でした。45分はp=0.002、60分はp=0.017、90分はp=0.049です。一方、120分はp=0.027で、噛んだ条件が低い結果でした。180分もp=0.023で、同じ向きです。
E20では、GLP-1全体と血糖の曲線下面積に差がありません。30分の血糖は、噛んだ条件で高い結果でした。p=0.007です。
インスリンの増加分の曲線下面積は高い結果でした。p=0.019です。GIPの増加分の曲線下面積も高く、p=0.009でした。血糖低下とそろった結果ではありません。
資金はキユーピー株式会社(東京)から出ています。著者9名のうち3名は同社の従業員です。別の1名も同社から研究資金を受けたと開示しました。資金源だけで退けず、設計や人数と一緒に読みます。
著者らは、対象と人数の限界を挙げています。対象は健常な若年男性19名でした。習慣的な咀嚼回数も調べていません。ゼリーの結果を固形の混合食へ広げる点も限界です。
この試験は、噛んだ条件で血糖が下がるという結果ではありません。噛む回数を増やして体重が変わらないときの数字も、回数を増やして健診の数字が動かない場合を扱っています。つまり、噛んだ条件が有利に見えても、健診の数字への効果とは分けて考える必要があります。
血糖の周辺で報告されていること
食べる速さには、空腹時高血糖との関連が報告されています。E23は29研究、465,155名のメタアナリシスです。遅く食べる群に対する速く食べる群のORは1.16でした。95%CIは1.06から1.27です。
ただし、29件のうち20件は横断研究でした。曝露はすべて、自己申告の食べる速さです。妥当性を確認した質問紙は16件でした。日本の研究が16件で、非アジアは4件です。
この関連は、介入の効果ではありません。早食いと空腹時血糖。オッズ比1.16の読み方では、数値の読み方を説明しています。噛む回数を増やす試験とは、問いが違います。
歯の状態を使った横断研究もあります。E07は米国の非入院成人25,638名を解析しました。曝露は噛む回数ではなく、歯の状態から数える機能的歯牙単位です。最適群は10から12、低下群は3未満でした。
高血圧の調整オッズ比は0.82でした。95%CIは0.72から0.92です。関連の18.0%をHbA1cが統計的に説明しました。95%CIは14.8から21.1です。
これは、血圧との関連にHbA1cが出てくる研究です。血糖低下の根拠としては扱えません。著者らも研究の限界を明記しています。つまり、周辺の関連を、噛む回数で健診の数字が変わる根拠にはできません。
明日ひとつだけやるなら
健診結果の空腹時血糖の値を、次の受診時に医師へ見せてください。咀嚼の記録ではなく、健診で測った数字を持っていきます。
4試験は、その人の血糖が動くかを答える設計ではありません。境界域と言われた人が何をすべきかは、この記事では答えられません。診断や対応は医師に相談してください。
研究を読む際の注意点は、咀嚼のエビデンスの限界とバイアスで説明しています。数字と対象者を分けて読むための記事です。つまり、健診の数字への対応は、噛む回数だけで決めずに次の受診へつなげます。
よくある質問
噛む回数を増やすと血糖値は下がりますか?
食後血糖が一方向に下がったという結果を、この記事が引く4試験では確認できません。E26とE17では、血糖に有意な変化がありませんでした。E27では食事終了時に高く、後半の食後期に低い結果でした。E20では、血糖の曲線下面積に差がなく、30分の値は高い結果でした。
よく噛むとインスリンは減りますか?
4試験から、一貫して減るとは判断できません。E26とE17では、インスリンは有意に変化しませんでした。E27では食事終了時に高く、後半の食後期に低い結果でした。E20では、インスリン増加分の曲線下面積が高い結果でした。
早食いをやめれば空腹時血糖は下がりますか?
食べる速さを変えれば空腹時血糖が下がるという結果を、このサイトは持っていません。E23は、速く食べる群と遅く食べる群の関連をまとめた解析です。食べ方を変える介入の結果を答える研究ではありません。詳しくは早食いと空腹時血糖。オッズ比1.16の読み方で確認できます。
まとめ
- E26とE17では、血糖とインスリンに有意な変化なし
- E27では、食事終了時は高く、後半は低い
- E20では、血糖の曲線下面積に差なし、30分は高い
- 食べる速さや歯の本数の関連は、回数を増やす効果とは別
- 健診の空腹時血糖は、次の受診時に医師へ見せる
4試験の数字をまとめても、噛む回数だけで健診の数字が変わるとは判断できません。
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この記事は情報提供を目的としており、診断や治療の代わりにはなりません。
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