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Evidence Level: Low

噛む回数を増やして体重が変わらないときの数字

よく噛むようにしたのに痩せない。咀嚼の介入で体重を測ったランダム化比較試験は1件だけで、8週間・201名で体重もBMIも動きませんでした。摂取量・血糖・GLP-1・満腹感について、測られた範囲と判断できない範囲を分けて整理します。

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凪本 咲

1食あたりの咀嚼回数が、アプリの記録で340回から520回に増えた。それでも2週間、体重は動かない。この記事は、そういう記録を手元に持っている人に向けて書きます。

結論から書きます。その結果は、この記事が引く試験と矛盾しません。咀嚼の介入で体重を主要アウトカムに置いたランダム化比較試験が1件だけあり、201名・8週間で体重もBMIも動いていません。

その一方で、噛む回数を増やすとその場の食事量が減ることには、数字の出ている試験があります。鎖が繋がっているのはそこまでです。その先は「まだ測られていない」のではなく、測られて動かなかった。 それが今の状態です。

むせる、飲み込みにくい、入れ歯が合わない、歯が欠けている、被せ物が取れたまま、顎が痛む。 ひとつでも当てはまる人は、噛む回数を増やす前に歯科医師または嚥下を診ている医療機関へ相談してください。 この記事は、病院に行かなくてよいという意味ではありません。

この記事でわかること

  • 体重を主要アウトカムにしたRCTが1件だけあり、そこで何が起きたか
  • 回数を増やすと何が減って、何が減らないのか
  • 血糖、GLP-1、インスリン、満腹感で出せる数字
  • 2週間の記録から、次に何を一つだけ測るか

読了目安:約14分(本文約7,100字)

先に、この記事で出せない数字を書きます

空欄は後回しにしません。この記事が出せる数字と出せない数字は、次のとおりです。

指標出せる数字出せない数字
体重201名・8週間のRCTで、体重もBMIもほぼ変化なし(E28)咀嚼回数を340回から520回へ増やした場合の減量幅
その食事の摂取量普段の1.5倍で9.5%、2倍で14.8%減(単回の昼食、E25)その減少が続いたときの体重の推移
食後の熱産生200kcalの液体食で90分間に3.4対7.4kcal1日や1年の消費量、体重への換算結果
空腹時血糖E19は空腹の状態で30分ガムを噛んだときの血糖を測定噛む習慣で健診の空腹時血糖が何mg/dL動くか
食後血糖E17とE20では全体として差なし境界域の人で何mg/dL動くか
GLP-1単回試験のpmol/L、時点別p値その変化による体重差
インスリンE20の増加分AUCのp値一貫した変化量と体重への影響
満腹感差が出た時点とp値E05の変化量、食事量や体重への影響
ウエスト周囲径同じRCTの介入群内で-1.4±5.3cm(p=0.0128)。ただし対照群との差は有意でないガム咀嚼そのものに帰属できる変化量

空腹時血糖の単位は一般にmg/dLですが、ここに健診値の変化幅は入れられません。この記事が引く試験から、その数字を計算できないためです。

回数が増えて体重が動かないのは、引いた試験と矛盾しません

まず、10件の対象と評価項目を並べます。「測っていないもの」から、体重について言える範囲が決まります。

ID対象(n、性別)測ったもの有意差が出たもの測っていないもの、または提示情報にないもの
E03健常若年男性11名90分間のDIT、血流、食欲、呼吸交換比DIT、腹腔動脈血流体重、体脂肪、褐色脂肪
E05健常成人50名、男女各25名満腹感、空腹感、血糖、インスリン、活性型GLP-1粒のクルミで満腹感が高く、空腹感が低い体重。咀嚼回数自体は比較していない
E1418研究、性別内訳は提示情報なし咀嚼機能と肥満の関連横断研究16件中12件の関連個別研究の効果量は提示情報なし。含まれるRCT 1件はE28にあたる
E17健常者30名と2型糖尿病患者15名、性別内訳は提示情報なしGLP-1、血糖、インスリン健常者の一口30回条件でGLP-1体重
E19健常非肥満男性12名GLP-1、満腹感、血糖、インスリン、GIP、空腹感GLP-1の低下の緩和、満腹感体重
E20健常若年男性19名GLP-1、インスリン、GIP、血糖時点別GLP-1、インスリンとGIPの増加分AUC体重、食欲、摂取エネルギー。咀嚼回数自体は比較していない
E25標準体重・過体重・肥満の成人45名自由に食べたときの摂取量、食事時間、食欲摂取量(150%で-9.5%、200%で-14.8%)体重。食欲には差が出ていない
E26健常体重・過体重の計41名摂取エネルギー、血糖、インスリン摂取エネルギーの減少(数値は抄録になし)体重。血糖とインスリンは全時点で差なし
E2765歳以上の男性15名食欲、血糖、インスリン、GIP、3時間後の摂取量食欲の低下、血糖等の時点別の増減体重。3時間後の摂取量に差なし
E28過体重・肥満の成人201名体重(主要)、BMI、ウエスト周囲径、血圧介入群内のウエストと血圧(群間差なし)─。体重は測られて、動かなかった

10件のうち9件は体重を測っていません。測ったのはE28の1件だけです。

その1件は、過体重・肥満の成人201名を8週間追ったランダム化比較試験でした。介入群102名は栄養情報の冊子に加えて1日90分以上ガムを噛み、対照群99名は冊子だけを受け取っています。遵守率は95%を超えていました。それでもintention-to-treat解析では、両群とも体重にもBMIにもほとんど変化がありませんでした。 著者らの結論は「8週間の定期的なガム咀嚼は、この過体重・肥満成人において減量を促進しなかった」です。

したがって、340回から520回への増加と体重不変は失敗判定になりません。この記事は、「やり方が悪かった」と評価する材料を持っていません。 ただしここで一つ、都合よく読まないための断りを置きます。E28が調べたのは1日90分以上のガム咀嚼であって、食事の噛み方ではありません。食事の噛み方を変えて体重を追った試験は、この記事が引く範囲にはありません。「食事の噛み方でも同じだ」と広げることはできません。

次に見る数字を、言えるものと言えないものに分けます

空腹時血糖と食後血糖

「噛めば健診の空腹時血糖が下がる」とは、このサイトの根拠からは言えません。

E19が測ったのは、空腹の状態で30分ガムを噛んだときの血糖です。健診の空腹時血糖が、噛む習慣で変わるかを追った試験ではありません。健常非肥満男性12名では、この単回の条件間で血糖値に有意差はありませんでした。

E17とE20が測ったのは食後の血糖です。E17では、健常者30名を10名ずつ3群に分けました。一口30回の条件を含め、食後の血糖値とインスリンに有意差はありませんでした。

E20は健常若年男性19名の試験でした。食後の血糖AUCに差はなく、30分時点では噛んだ条件のほうが高いという結果でした(p=0.007)。

咀嚼回数そのものを変えて食後の血糖を測った試験も2件あります。E26は一口15回と50回を比べ、血糖もインスリンも0・30・60・90・120・180分のどの時点でも有意には変化していません。 E27は65歳以上の男性15名で一口15回と40回を比べた試験で、こちらは**食事終了時には40回条件のほうが高く(p<0.01)、後半の食後期には逆に低い(p<0.05)**という結果でした。上がったか下がったかが、いつ測ったかで変わる。 一つの数字にまとめられません。

したがって、「健診の空腹時血糖が噛む回数で動くか」を調べた試験を、このサイトは確認できていません。有意差がなかったという位置づけではなく、健診値の変化をそもそも測っていません。健診の境界域という所見を、咀嚼回数で動かせるとは約束できません。

食後の血糖について測られた範囲は、よく噛むと食後血糖値のカーブは緩やかになるのかでも整理しています。

GLP-1

GLP-1は、単回試験で動いた時点があります。ただし、この記事が引く範囲では、その変化から体重が減るまでを測った試験を確認できていません。

E17の一口30回条件では、健常者の食後30分値が9.9±3.3でした。通常の食べ方では8.6±2.1pmol/Lでした(p<0.05)。一方、2型糖尿病患者15名では差が出ませんでした。測定法で基準値が高めになった可能性も、著者が挙げています。

E19では、ガムを30分噛んだ男性12名を調べました。30分値は49.6±20.3対38.9±20.9pmol/Lでした(p=0.031)。著者の表現は「増やす」ではなく、空腹時の低下を和らげるというものでした。

E20では45分(p=0.002)、60分(p=0.017)、90分(p=0.049)で噛んだ条件が高いという結果でした。しかし、120分(p=0.027)と180分(p=0.023)では逆に低いという結果でした。GLP-1全体のAUCには有意差がありませんでした。

インスリン

インスリンの方向は揃っていません。E05、E17、E19では有意差がありませんでした。E20では増加分AUCが高いという結果でした(p=0.019)。

E20は千切りキャベツとペーストを比べた試験です。咀嚼回数だけを変えた比較ではありません。この研究はキユーピー株式会社が資金を提供しています。著者9名中3名は同社従業員で、別の1名も研究資金を開示しています。

資金源は研究を退ける理由ではありません。結果を読むときに、設計や対象者数と一緒に確認する開示情報です。

満腹感

満腹感も結果が揃っていません。E05では粒のクルミのほうが満腹感は高いという結果でした(p<0.05)。空腹感は低いという結果でしたが、変化量は原著本文に数値がありません。図とp値だけなので、効果の大きさは出せません。

E05は健常な歯列を持つ男女50名の試験でした。粒とペーストを比べており、回数だけの比較ではありません。著者1名がカリフォルニアくるみ協会から研究助成を受けています。これも研究の否定ではなく、読者が知っておくべき開示です。

E19では、満腹感が15分、25分、30分で高いという結果でした(それぞれp=0.043、p=0.014、p=0.018)。一方、E03の男性11名では、満腹感に有意差がありませんでした。「満腹感が何点増え、食事量がどれだけ減るか」は、この記事が引く範囲からは出せません。

その食事の摂取量

ここだけは、数字が出ています。

E25は、標準体重から肥満まで含む成人45名のランダム化クロスオーバー試験です。この試験は「一口30回」のような固定の回数を指示していません。まず一人ひとりの普段の咀嚼回数を測り、普段どおり・その1.5倍・2倍で噛ませています。 そのうえで昼食のピザを満腹まで自由に食べてもらいました。結果は、普段どおりの条件に対して1.5倍で摂取量が9.5%、2倍で14.8%少なくなっています。

340回が520回になったのは、比率にすると約1.5倍です。E25の1.5倍条件と近い位置にあります。

ただし、この試験には読み落としてはいけない結果がもう一つあります。食事終了時と食後60分までの主観的な食欲には、条件間で差が出ていません。 「食べたい気持ちが減ったから食べる量が減った」とは言えない、ということです。減った理由は、この試験からは分かりません。

E26は、健常体重と過体重の計41名で一口15回と50回を比べた試験です。50回条件では、BMIによらず摂取エネルギーが減っています。 ただし抄録に減少幅の数値が書かれておらず、効果の大きさは出せません。

そしてどちらの試験も、単回の食事を見たものです。体重は測っていません。

つまり鎖はこうなっています。噛む回数を増やす → その食事の量が減る(E25・E26で測定あり)→ 体重が減る(E28で測られ、動かなかった)。繋がっているのは前半だけです。

ウエスト周囲径

E14のレビューが1件だけ含むRCTとして引いているのは、上のE28にあたる試験です。そのウエスト周囲径の結果は、正確に書くと次のようになります。 介入群の中では8週間で平均-1.4±5.3cm、有意に減っています(p=0.0128)。しかし対照群と比べた変化量の差は有意ではありませんでした。 血圧も同じ形で、介入群内では下がっていますが群間差はありません。

レビューの著者ら自身も、対照群にも少し減少が見られたことを挙げて、ガム咀嚼だけでは有意な効果は得られないかもしれないと書いています。

E14の残る研究の大半は、ある時点の関連を見る横断研究でした。16件中12件で、咀嚼機能の低下と肥満の関連が報告されています。関連があることから、噛む介入の結果までは決められません。著者らも因果関係の証明には至らないと結論づけています。

4kcalを掛け算しません

E03は健常若年男性11名のランダム化クロスオーバー試験です。200kcalの液体食を3条件で比べています。90分間のDITは3.4、5.6、7.4kcalでした(p<0.05)。噛んだ条件と、そのまま飲む条件の差は約4kcalです。

4kcalを1日3食、365日で掛けると約4,400kcalになります。体脂肪のエネルギーに置き換える計算では約0.6kg相当です。計算そのものはできます。ただし、掛け算をした時点で、それは測定値ではなく推測です。

この試験が測ったのは、液体食をとった後の90分間だけです。1日の総消費量も体重も測っていません。しかも、増加分の半分以上は噛まずに口に含む条件で説明できます。この試験だけでは、年単位の体重差へ延ばす根拠になりません。

測られている数字から推測を分ける方法は、噛むことの費用対効果を、測られている数字で見積もるでも扱っています。

「もっと続ければ出る」とは書けません

2週間を「短すぎる」と評価する根拠を、このサイトは確認できていません。

そのうえで、期間について言える数字が一つだけあります。E28は8週間、201名を追って、体重もBMIも動きませんでした。 2週間より長く、人数もこの記事の中で最も多い試験です。

だからといって「続けても無駄だ」とも書けません。E28が調べたのはガム咀嚼であって、食事の噛み方ではないからです。食事の噛み方で回数を指定し、期間を追って体重を測った試験を、この記事は持っていません。

「もっと続ければ体重に出る」も「続けても出ない」も、どちらも書けない。 それが正確な位置です。

明日、1つだけ

次の平日の昼食で、食べ終えて30分後の満腹感を0から10で記録します。0を「まったく満腹でない」、10を「これ以上食べたくない」と固定します。明日記録するのは、この1項目だけです。

この記事が引く範囲では、この記録で健康状態が変わるという根拠を確認できていません。E05とE19で満腹感に差が出た一方、E03では差がありませんでした。同じ条件の記録は、自分の昼食で動くかを判断する材料にはなります。

それでも変わらないときは

体重も満腹感も動かなければ、その事実をそのまま残します。そこから咀嚼の効果や失敗を決める必要はありません。

空腹時血糖が境界域だと言われている場合は、健診結果を持って、かかりつけ医か内科へ相談してください。「噛む回数を増やしています。健診で境界域だった空腹時血糖は、次にいつ確認すればよいですか」と医師に聞いてください。測定する時期と対応は、医師の判断に渡します。

急な体重変化や体調不良がある場合は、記録の継続より受診を優先してください。

よくある質問

噛む回数を増やせば空腹時血糖は下がりますか?

この記事が引く範囲からは言えません。E19が測ったのは、空腹の状態で30分ガムを噛んだときの血糖です。健診の空腹時血糖が、噛む習慣で変わるかを追った試験ではありません。E17とE20が測ったのは食後の血糖です。境界域の確認時期は、健診結果を持って医師に相談してください。

何回噛めばいいですか?

この記事から体重や血糖のための回数は決められません。E17には一口30回、E19には2分間80回の設定があります。しかし、対象、食事、測定時間が異なり、体重を測っていません。

回数の決め方として一つだけ紹介できるのは、E25のやり方です。固定の回数を配るのではなく、その人の普段の回数を先に測って、その1.5倍・2倍に増やしています。 摂取量が減ったのはその条件でした。1食合計520回という数字そのものを目標値として支持する根拠は、この記事にはありません。

2週間で体重が変わらないのは短すぎますか?

「短すぎる」と評価する根拠を、このサイトは確認できていません。参考になる数字は、8週間・201名のガム咀嚼RCT(E28)で体重もBMIも動かなかったことです。ただしこれはガムの試験で、食事の噛み方を8週間追った試験ではありません。「期間を延ばせば体重差が出る」も「出ない」も、この記事からは置けません。

まとめ

  • 340回から520回へ増えて体重が変わらなくても、引用した試験とは矛盾しません。
  • 咀嚼の介入で体重を測ったRCTは1件(201名・8週間)だけで、体重もBMIも動きませんでした。ただしそれはガム咀嚼の試験です。
  • 噛む回数を増やすとその食事の量が減ることには、数字があります(普段の1.5倍で9.5%、2倍で14.8%)。
  • 血糖、GLP-1、インスリン、満腹感は結果が揃わず、体重差までつながっていません。
  • 明日は昼食30分後の満腹感を0から10で一つだけ記録します。

次に読む

この記事は情報提供を目的としており、診断や治療の代わりにはなりません。

この記事の科学的根拠(参考文献)

Chewing increases postprandial diet-induced thermogenesis

Yuka Hamada, Naoyuki Hayashi (2021)

Published in: Scientific Reports

ランダム化クロスオーバー試験 n = 11 男性のみが対象
Reference Summary

健常な若年男性11名のランダム化クロスオーバー試験。液体食200kcal(カロリーメイト缶)を、そのまま飲む/一口30秒間口に含む/一口30秒間(1秒1回で30回)噛んでから飲む、の3条件で比較した。食後90分間の食事誘発性熱産生は 3.4 → 5.6 → 7.4 kcal と有意に増加し(p<0.05)、胃や肝を灌流する腹腔動脈の血流も味わい・咀嚼の両条件で増えた。ただし腸管側の上腸間膜動脈の血流、呼吸交換比、空腹感・満腹感には有意差が出ていない。咀嚼と対照の差は90分で約4kcal。体重や体脂肪は測定しておらず、著者も肥満予防に役立つ『かもしれない』と推測の形でしか述べていない。

Science x Habit

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