この記事は以前、「よく噛むと血糖値のカーブが緩やかになる」という結論を、確定した機序として書いていました。引用していた研究はそれを示していません。2026年8月に書き直しています。
以前のこの記事は、噛むことでGLP-1が早期に分泌され、胃排泄が遅れ、血糖値カーブが「なだらかな丘」を描くと説明していました。根拠として挙げていたのは E02 と E04 の2件です。
- E02はマウスを対象とした学位論文で、査読誌に掲載されたものではありません。ヒトの食後血糖の研究ではありません。
- E04は吹田研究(中高年男性の咀嚼能力とメタボリック症候群の観察研究)で、粒子サイズを測っていません。
噛む回数を指定した試験で、血糖値はどうなったか
ヒトで噛む回数を変えて食後の血糖を測った試験は、このサイトが確認できた範囲で2件です。
- E17(Sonoki et al. 2013)… 一口30回の咀嚼で、食後30分の活性型GLP-1は有意に増加しました。ただし血糖値もインスリンも、どの条件でも変化していません。 2型糖尿病患者15名では、GLP-1にも有意差が出ていません。
- E19(Xu J et al. 2015)… 空腹時のガム咀嚼でGLP-1は有意に高くなりました。ただし血糖値・インスリン・GIPには有意差がありません。
つまり、噛む回数を変えて血糖値のカーブが変わったという結果は、ここで引いている試験では出ていません。 GLP-1が動いていることと、血糖値が変わることは別の話です。
食べ物の形を変えた試験では
- E05(成人50名)… 同じクルミを粒のまま食べる条件とペースト状にする条件を比べ、血糖値・インスリン・活性型GLP-1のいずれにも有意差が出ていません。 満腹感だけが粒のほうで高くなりました(p<0.05)。
- E20(Kamemoto et al. 2024)… 千切りキャベツとペーストの比較で、インスリンとGIPの曲線下面積は高くなりました。ただし血糖値の曲線下面積に差はなく、30分時点ではむしろ噛んだ条件のほうが高くなっています(p=0.007)。 この研究はキユーピー株式会社の資金提供を受けており、著者9名中3名が同社の従業員です。
血糖値に関して言えば、噛んだほうが下がったという結果は1件もありません。 E20は逆に、ある時点では上がったという結果です。
削除した記述
- 「すい臓がパニックになり、大量のインスリンを一気に分泌する」— これを示した研究を引いていません
- 「インスリン(別名:肥満ホルモン)」— 研究の記述ではありません
- 「GLP-1がすい臓に頭出し(事前予告)をしてくれる」— 引用元にこの記述はありません
- 「食後2〜3時間後に急激な低血糖状態に陥る」「偽の強い空腹感」— 引用している研究は食後の低血糖も空腹感の反動も測っていません
- 「最初の一口を30回噛むことが血糖カーブの傾きを決定づける」— 食べる順番や初口の咀嚼回数を変えて血糖を測った研究を引いていません
分かっている範囲で書けること
- 噛む回数を増やすと、食後のGLP-1が上がったという報告がある(E17・E19)
- 同じ試験で、血糖値とインスリンには差が出ていない
- 食べ物の形を変えた試験では、E05はすべて差なし、E20はインスリンとGIPに差ありで、血糖値のカーブについては両方とも改善を示していない
- 咀嚼機能の低下と代謝指標の関連を報告した観察研究はある(E04)が、観察研究なので原因と結果の向きは決められない
食後血糖について具体的な判断が必要な場合、特に糖尿病の治療中の方は、医師や管理栄養士に相談してください。このサイトは咀嚼に関する研究を紹介する場所で、医療専門職の監修は受けていません。
※この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。
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