夕食を並べて、箸をつける前に気づくことがあります。今日も、あまり噛まずに食べ終わりそうな献立です。全部を作り直す気力はないけれど、何かひとつなら足せるかもしれない。そんな夜に、検索窓へ「噛みごたえ 食べ物」と入れるのではないでしょうか。この記事では、研究で確かめられた範囲と、今夜の売り場で選べるものを分けて書きます。
先に、安全についてお伝えします。
食事中にむせる、飲み込みにくい、入れ歯が合わない、歯が欠けている、被せ物が取れたまま、顎が痛む。ひとつでも当てはまる場合は、この記事の一覧を使わないでください。
先に歯科医師、または嚥下を診ている医療機関へ相談してください。家族の食事を調べている方にも、介護食をやめて硬いものに戻す、という話ではありません。
この記事は、病院に行かなくていいという意味ではありません。
この記事でわかること
- 研究で比べられた「粒・千切り」と「ペースト」の違い
- スーパーの4つの売り場で探せる具体例
- 硬さや体重、血糖について言える範囲
読了目安:約7分(本文約3,500字)
先に、この一覧の限界を書きます
このあと挙げる食材一覧そのものを試した研究を、このサイトは確認できていません。引ける試験は2件で、比べたのは「噛む回数」ではなく「食べ物の形」です。粒とペースト、千切りとペーストを比べています。
私は医師でも研究者でもありません。だからこそ、読者に代わって結論を広げないと決めています。自分で確かめられたところと、確かめられなかったところを分けて書く。それが、この記事のルールです。
一覧は、試験で扱われた形の差を、私が売り場に当てはめた整理です。各食品に同じ結果が出ると示すものではありません。食品同士を硬さで順位づけするものでもありません。
効果の大きさについても、先に空欄だと書いておきます。 満腹感がどれだけ動いたのかを、この記事では数字で出せません。理由は後段に書きますが、原著を読んでも出てこないからです。数字で判断したい方は、ここで引き返しても損はしません。
満腹感とホルモンは、同じ方向に動かなかった
50人の健常成人に、クルミを28g食べてもらいました。ただし、片方は粒のまま、もう片方はペーストです。同じ量でも、粒の条件では満腹感が高く、空腹感が低い結果でした(p<0.05)。E05
ところが、満腹感の差を説明してくれそうな血糖値、インスリン、活性GLP-1には有意差がありませんでした。感覚には差が出たのに、測ったホルモンには差が出ない。ここが、この試験の興味深いねじれです。
しかも、すべてが粒に有利な方向へ動いたわけではありません。甘いものが欲しい感覚は、ペーストの条件で低い結果でした(p<0.0005)。都合のよい結果だけを拾うと、この部分が抜け落ちます。
満腹感が何点、何mm動いたのかは、この記事では出せません。原著を読みましたが、本文に書かれているのはp値と図だけで、変化量の数値がそもそも載っていません。 効果の大きさは、原著にあたっても読み取れないということです。数字で判断したい方には、ここは空欄のままだと思ってください。
もうひとつ、この試験について書いておくことがあります。参加者の条件には「健全な歯列であること」が含まれていました。 歯や噛みにくさに問題のある人は、最初から対象に入っていません。資金は、著者の1名がカリフォルニアくるみ協会から受けた研究助成です。
もうひとつは、健常な若年男性19人の試験です。千切りキャベツを噛んだ条件と、同量をペーストにした条件を比べました。総GLP-1は45分(p=0.002)、60分(p=0.017)、90分(p=0.049)では噛んだ条件で高くなりました。インスリンとGIPの増加分の曲線下面積も高い結果です(p=0.019 / p=0.009)。
ここまでは噛んだ側を支持する結果です。ところが120分(p=0.027)と180分(p=0.023)では、GLP-1は逆に噛んだ条件のほうが低くなりました。結果は途中でひっくり返り、全体の曲線下面積には有意差がありません。血糖値も曲線下面積では差がなく、30分ではむしろ噛んだ条件が高い結果でした(p=0.007)。食欲や摂取エネルギーは測っていません。E20
判断材料として、資金との関係も書いておきます。この研究の資金はキユーピー株式会社です。著者9名のうち3名が同社の従業員で、別の1名も同社からの研究資金を開示しています。
対象は少人数の若年男性で、試験食はゼリーでした。固形の混合食や別の年代へ、そのまま当てはめることはできません。2件とも短時間の試験で、2件とも体重を測っていない。粒や千切りを選んだ後の体重は、この2件から答えられません。
今夜は、売り場で1品だけ選ぶ
献立を組み直す必要はありません。1食に1品だけなら、買い物も調理も大仕事になりにくいはずです。今の献立は変えないまま、いつもの売り場で足せそうなものを探します。
表にあるのは研究結果ではありません。調理の手間を抑えた食材候補です。売り場をひとつずつ眺め、今夜使えそうな1品があれば、そこで探すのを終えられます。
| 売り場 | 今夜足せるもの | 手間の目安 |
|---|---|---|
| 豆腐売り場 | 木綿豆腐、厚揚げ、高野豆腐 | 木綿豆腐は切るだけ。厚揚げは焼いて数分。高野豆腐は戻して煮る |
| 豆・乾物 | 蒸し大豆、ひよこ豆の水煮、ミックスビーンズ | パックを開け、サラダやスープへ加えるだけ |
| ナッツ | 素焼きアーモンド、クルミ(E05で使われたのはクルミ) | 小皿へ出すだけ |
| 野菜 | ごぼう、れんこん、ブロッコリーの茎、エリンギ、切り干し大根 | 薄切りなら下ごしらえ数分。切り干し大根は水で戻す |
汁物や小鉢に木綿豆腐を足せば、形の残る一品が増えます。包丁を出したくない夜なら、豆のパックという選び方もあります。一覧を埋める必要はなく、選ぶのは1品だけです。
ナッツは少量でもエネルギー量が大きくなりやすい食品です。厚揚げも、野菜と同じ感覚では扱えません。食品ごとの違いを無視し、同じ量を足すための一覧ではありません。
ナッツ、ごぼう、こんにゃくのように噛み切りにくいものは、冒頭の除外条件に当てはまる方には向きません。
体重が動かなくても、試験とは矛盾しない
咀嚼回数が増えたのに、体重がまったく動かない。数字で経過を追っていれば、取り組み方が悪かったのかと考えたくなります。しかし、今回の2件からは、そう判断できません。
体重が動かないのは、やり方が悪いからとは限りません。そもそもこの2件は体重を測っていないからです。体重への結果を示す試験ではなく、時間の経過を理由に先の変化を約束することもできません。
また、「硬いほどいい」という話でもありません。硬さを競えば、顎や歯を痛めるおそれがあります。無理なく食べられる形を選ぶことと、限界まで硬いものに挑むことは別です。
噛みごたえとエネルギー量も、同じ尺度ではありません。ナッツや厚揚げは形が残りますが、エネルギー量が小さい食品とは限りません。手間に見合わなければ、別の売り場から1品を選び直せます。
食材を変える前に相談したいこと
噛みにくさや歯の問題は歯科へ。むせや飲み込みにくさは、耳鼻咽喉科や嚥下外来が相談先になります。繰り返すむせを、食材の変更だけで済ませる話ではありません。
健診の血糖値などが気になる場合は、かかりつけ医へ相談してください。この記事の2件は、血糖管理の方法を検証した試験ではありません。食べること自体が苦痛なら、我慢を続けず、医療機関や地域の相談窓口へつないでください。
よくある質問
噛みごたえのある食べ物は何がありますか
木綿豆腐、厚揚げ、蒸し大豆、ひよこ豆、素焼きアーモンド、クルミ、ごぼう、れんこんなどがあります。硬さの順位ではなく、普段の食事に加えやすい売り場別の候補です。噛むことや飲み込むことに不安がある場合は、この一覧を使わないでください。
噛みごたえがあると満腹になりやすいですか
50人のクルミ試験では、粒の条件で満腹感が高い結果でした。ただし、効果量をこの記事では示せず、ほかの食品にも同じ差が出るとは言えません。「硬いほど満腹になる」と示した試験でもありません。
噛みごたえのある食べ物は血糖値にいいですか
この記事が引いた2件では、そう結論づけられません。クルミ試験では、粒とペーストで血糖値に有意差がありませんでした。キャベツ試験も全体の曲線下面積では差がなく、30分では噛んだ条件が高い結果でした。
まとめ
- 研究で比べられたのは、咀嚼回数ではなく食べ物の形
- 今の献立を変えず、売り場から1品だけ足す
- むせや歯、顎の問題がある場合は、一覧より先に医療機関へ相談する
次に読む
※この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。噛みにくさやむせがある場合は自己判断で食形態を変えず、歯科または医療機関へ相談してください。
※このサイトを誰がどういう基準で書いているかは運営者情報・編集方針に書いています。書き手は医師でも研究者でもありません。原著論文にあたること、原著に書いていないことは書かないこと、を基準にしています。
この記事の科学的根拠(参考文献)
Mastication of Nuts under Realistic Eating Conditions: Implications for Energy Balance
Brittany M. McArthur, Robert V. Considine, Richard D. Mattes (2018)
Published in: Nutrients
健常成人50名(男女各25名)を対象とした被験者内クロスオーバー試験。クルミ28gを粒のまま食べる条件と、同じクルミをペースト状にした条件を比較した。粒のまま食べたほうが満腹感は高く空腹感は低かった(p<0.05)一方、血糖値・インスリン・活性GLP-1には有意差が出ておらず、満腹感の差をホルモンでは説明できていない。著者らは咀嚼が神経を介して作用している可能性を挙げているが、確かめてはいない。なお本研究は糞便へのエネルギー損失や吸収率そのものは測定していない(それらは考察での先行研究の引用)。 参加者の条件に「健全な歯列であること」が含まれており、歯や噛みにくさに問題のある人は最初から対象外である。満腹感・空腹感の変化量は本文に数値として書かれておらず(p値と図のみ)、効果の大きさは原著からは読み取れない。資金は著者の1名がカリフォルニアくるみ協会から受けた研究助成による。
正しい咀嚼を、もっと楽しく。
研究で報告されているメリットを、あなたの日常へ。MoguExerciseはあなたの健康的な食習慣をサポートします。