同じ量のクルミを、粒のまま食べた場合とペースト状(クルミバター)にして食べた場合とで、その後の満腹感に差が出ることが報告されました。興味深いのは、その差を説明できるはずのホルモンには差が見つからなかったという点です。研究チームは、満腹感の違いが血中のホルモンではなく、噛むこと自体による神経の働きから来ている可能性を挙げています。
本内容は、オープンアクセスジャーナル「Nutrients」に掲載された、実環境に近い条件でのナッツの咀嚼に関する論文にて確認できます。
Mastication of Nuts under Realistic Eating Conditions: Implications for Energy Balance | Nutrients https://doi.org/10.3390/nu10060710
健常成人50名で、ホールとペーストを比較
研究は健常な成人50名(男性25名・女性25名、BMI 24.7±3.4、年齢18〜52歳)を対象とした被験者内クロスオーバー試験として行われました。同じ人が両方の条件を体験し、順序による影響を打ち消す設計です。
実験は2部構成になっています。前半では、クルミ・アーモンド・ピスタチオの3種を、単独/水/リンゴジュース/加糖ヨーグルト/プレーンヨーグルトと一緒に食べる5条件で比較し、飲み込む直前の食塊の粒子サイズを湿式篩分けで測定しました。後半では、クルミ28gを「粒のまま」食べる条件と、同じクルミをフードプロセッサーで滑らかにした「クルミバター」28gを食べる条件を比較し、その後180分間の食欲感覚と血液の指標を追跡しています。
満腹感には差が出た
後半の比較では、粒のまま食べたほうが満腹感は高く、空腹感は低くなりました(p < 0.05)。食べ物のことが頭から離れない感覚や喉の渇きも、粒のまま食べたほうが低い値でした(p = 0.006)。
一方で、甘いものが欲しい感覚についてはペーストのほうが低いという、方向の異なる結果も出ています(p < 0.0005)。すべての指標が一方向に揃ったわけではありません。
ホルモンには差が出なかった
ここが本研究のもっとも重要な部分です。血糖値・インスリン・活性GLP-1を摂取後180分間に7時点で測定したところ、いずれも粒のままとペーストの間で有意な差は認められませんでした。論文には、摂取後の血糖とインスリンについて形態および時間の有意な効果は無かったこと、GLP-1についても処置による有意な効果は無かったことが明記されています。
つまり、「よく噛むと満腹ホルモンが多く出るから満腹になる」という説明は、少なくともこの実験では成立しませんでした。満腹感には差が出たのに、その差を説明するはずのホルモンは動かなかったのです。
著者らはこの食い違いについて、咀嚼が内分泌ではなく神経を介した経路で直接作用している可能性を考察で挙げています。ただしこれは仮説であり、本研究で確かめられたわけではありません。
粒子サイズは「何と一緒に食べるか」でも変わる
前半の実験では、粒子サイズがナッツの種類によっても(p < 0.0001)、一緒に口へ入れるものによっても(p < 0.0001)有意に変わることが示されました。ヨーグルトと一緒だと3.35mmを超える粗い粒子が増え、水と一緒だと0.125mm未満の微細な粒子が増えるという具合です。
また、決められた15秒だけ噛む場合と、飲み込みたくなるまで噛む場合を比べると、後者では咀嚼時間が長くなり(p < 0.0005)、微細な粒子も増えました(p = 0.003)。一方で、噛む力そのもの(平均咬合力・最大咬合力・総筋仕事量)には条件間で差がありませんでした。
エネルギーの吸収についてはこの研究では測っていない
ナッツをよく噛まないと脂質が吸収されずに便として排出される、という話は以前から知られています。ただし本研究では糞便のエネルギー損失は測定されていません。論文の考察部分で、クルミを多く含む食事で糞便へのエネルギー損失が増えるという先行研究や、クルミのエネルギーの21%は体に取り込まれないという報告が引用されているにとどまります。
この点は方向を取り違えやすいので注意が必要です。よく噛むほど細胞壁が壊れて栄養素にアクセスしやすくなるということは、裏を返せばよく噛むほど吸収されるエネルギーは増えることを意味します。咀嚼には満腹感を高める方向と、吸収を増やす方向の両方があり、体重管理という観点でどちらが上回るのかは、この研究では結論が出ていません。
著者が挙げている限界
- 咀嚼回数や咀嚼時間を標準化したため、食塊が自然な条件下で飲み込む時点の状態を忠実に反映していない可能性がある
- 測定したのは短期的な満腹感であり、長期的な食行動を予測できるとは限らない
- 口の中での処理の違いが、その後の消化やエネルギーの取り込みやすさにまで波及するかは追加の研究が必要
- 甘味と粒子サイズの関係が先行研究と逆向きに出ており、追試が要る
なお本研究では腸内細菌叢は測定されていません。
この研究から言えること
粒のまま噛んで食べたほうが、ペースト状より満腹感は得られやすい。ここまでは実験の結果として言えます。ただしその理由はまだ特定されておらず、満腹ホルモンで説明する筋書きは今回の測定では支持されませんでした。
ナッツを間食にするなら、粉砕された製品よりも粒のままのものを選び、飲み込みたくなるまで噛む。実践としてはその程度が、現時点のデータから無理なく引き出せる範囲です。
この記事の科学的根拠(参考文献)
Mastication of Nuts under Realistic Eating Conditions: Implications for Energy Balance
Brittany M. McArthur, Robert V. Considine, Richard D. Mattes (2018)
Published in: Nutrients
健常成人50名(男女各25名)を対象とした被験者内クロスオーバー試験。クルミ28gを粒のまま食べる条件と、同じクルミをペースト状にした条件を比較した。粒のまま食べたほうが満腹感は高く空腹感は低かった(p<0.05)一方、血糖値・インスリン・活性GLP-1には有意差が出ておらず、満腹感の差をホルモンでは説明できていない。著者らは咀嚼が神経を介して作用している可能性を挙げているが、確かめてはいない。なお本研究は糞便へのエネルギー損失や吸収率そのものは測定していない(それらは考察での先行研究の引用)。
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