「よく噛みましょう」と言われても、噛む回数を数えながら食事をするのは現実的ではありません。数え始めた瞬間に食事が作業になり、たいてい三日で終わります。
そこで、回数ではなく時間で区切る方法を整理します。一口を口に入れたら30秒経つまで飲み込まない、というだけの決め方です。
先に、この方法で期待していい効果の大きさを書いておきます。食後のエネルギー消費はわずかに増えますが、これだけで体重が動く量ではありません。 数字は後半に載せます。
なぜ回数ではなく時間なのか
噛む回数を数えると、意識が食べ物ではなくカウントに向きます。会話をすると数がわからなくなり、途中でやめてしまいます。
時間で区切ると、数える必要がなくなります。最初の数回だけスマホのタイマーで30秒を体感しておけば、あとは感覚でおおよそ合うようになります。
もうひとつの利点は、食材の選び方が自然に変わることです。白米やうどんは口の中で30秒ももちません。30秒もたせようとすると、素焼きのナッツ、根菜、きのこ、肉の赤身といった噛みごたえのあるものを選ぶことになります。噛む回数を増やそうとするより、こちらのほうが結果的に長続きします。
続けるための3つの決め方
1. 最初のひと口だけにする
全部の食事で30秒噛むのは、まず続きません。1日1食、それも最初のひと口だけと決めます。
食べ始めの速度が落ちると、その後のペースも落ちやすくなります。1食まるごとを変えるより、入り口だけを変えるほうが負担が小さくて済みます。
2. 時間を数える道具を決めておく
30秒は思ったより長く感じます。最初の1週間はスマホのタイマーを使い、体感がつかめたら外します。
道具を決めておかないと「だいたいでいいか」となり、実際には10秒程度で飲み込んでいることがよくあります。
3. 献立の側で時間を稼ぐ
意志で30秒もたせるより、食材で稼ぐほうが確実です。
| 変えるところ | 具体的にすること |
|---|---|
| 主菜 | ひき肉より塊肉、切り身より骨つき |
| 副菜 | 根菜、きのこ、海藻を1品足す |
| 間食 | 粉砕された製品より、粒のままのナッツ |
| 汁物 | 具を大きめに切る |
期待していい効果の大きさ
ここが誇張されやすいところなので、実際に測られた数字をそのまま書きます。
Chewing increases postprandial diet-induced thermogenesis | Scientific Reports (2021) https://doi.org/10.1038/s41598-021-03109-x
健常な若年男性11名を対象としたランダム化クロスオーバー試験です。200kcalの液体食を20mLずつ、次の3条件で摂取して比較しています。
| 条件 | 口の中でどうするか | 食後90分間のDIT |
|---|---|---|
| 対照 | そのまま飲み込む | 3.4 kcal |
| 味わう | 噛まずに30秒間口に含む | 5.6 kcal |
| 噛む | 30秒間噛んでから飲み込む | 7.4 kcal |
DIT(食事誘発性熱産生)は、食べたあとに消化や吸収のために消費されるエネルギーです。噛む条件は対照より有意に高い値でした(p < 0.05)。
差は90分間で約4kcalです。 ご飯ひと口のおよそ6分の1にあたります。
見落とされやすいのが真ん中の行です。噛まずに口に含んでいるだけでも2.2kcal増えており、増加分の半分以上は噛むことではなく、口の中に置いておく時間で説明がつきます。この方法を「30秒噛む」ではなく「30秒飲み込まない」と表現しているのは、そのためです。
なお、この研究で使われたのは液体食です。固形食を使った同じ著者らの先行研究では、100kcalの固形食で6kcal、621kcalの食事で180分間に15kcalという値が考察に引用されています。
この方法で言えないこと
- 痩せるとは言えません。この研究では体重も体脂肪も測定されていません。著者らも結論で「推測する(speculate)」という言葉を使っています
- 満腹になって食べる量が減るとも言えません。この研究では空腹感・満腹感に有意差が出ていません
- 脂肪が燃えやすくなるとも言えません。呼吸交換比と基質の酸化に有意差はありませんでした
- 対象は11名の若年男性で、測定は90分間です。女性、中高年、肥満のある人での再現はこの研究の範囲外です
まとめ
- 回数を数えるより、30秒飲み込まないと決めるほうが続く
- 1日1食、最初のひと口だけから始める
- 意志ではなく献立で時間を稼ぐ
- 増えるエネルギー消費は1食あたり数kcal。体重を動かす手段としては期待できない
- それでも噛みごたえのある食材を選ぶようになる副次的な変化のほうが、実際には大きいかもしれない
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※この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。
この記事の科学的根拠(参考文献)
Chewing increases postprandial diet-induced thermogenesis
Yuka Hamada, Naoyuki Hayashi (2021)
Published in: Scientific Reports
健常な若年男性11名のランダム化クロスオーバー試験。液体食200kcal(カロリーメイト缶)を、そのまま飲む/一口30秒間口に含む/一口30秒間(1秒1回で30回)噛んでから飲む、の3条件で比較した。食後90分間の食事誘発性熱産生は 3.4 → 5.6 → 7.4 kcal と有意に増加し(p<0.05)、胃や肝を灌流する腹腔動脈の血流も味わい・咀嚼の両条件で増えた。ただし腸管側の上腸間膜動脈の血流、呼吸交換比、空腹感・満腹感には有意差が出ていない。咀嚼と対照の差は90分で約4kcal。体重や体脂肪は測定しておらず、著者も肥満予防に役立つ『かもしれない』と推測の形でしか述べていない。
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