この記事は以前「咀嚼が頭皮に物理的なストレッチと血行促進をもたらすことが確認されている」と書いていました。それを確認した研究はありません。2026年8月に書き直しています。
咀嚼と毛髪の関係についてはこちらの記事にまとめました。ここでは「噛む動きは頭皮マッサージと同じか」という一点だけを扱います。
参照している研究
Standardized Scalp Massage Results in Increased Hair Thickness by Inducing Stretching Forces to Dermal Papilla Cells in the Subcutaneous Tissue https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4740347/
健常男性9名に、1日4分間の標準化された頭皮マッサージを24週間続けてもらった研究です。毛髪の太さが0.085mmから0.092mmへ増えたと報告されています。専用のデバイス(170rpm)を側頭部に当てた研究で、咀嚼は出てきません。 独立した対照群はなく、同じ人の反対側の頭皮を無処置の対照としています。
この記事のテーマからすると、当てた場所が側頭部だったことは押さえておくべき点です。側頭筋が動くのと同じ領域に、外から機器で刺激を加えた研究、という位置づけになります。
解剖学的に言えること
側頭筋は下顎骨から始まり、耳の上を通って側頭骨を扇状に覆う筋肉です。その上端は、頭を覆う結合組織である帽状腱膜と隣り合っています。
奥歯を噛みしめてこめかみに触れると、筋肉が動くのが分かります。ここまでは解剖学の話で、確かなことです。
確かめられていないこと
以前この記事は、ここから次のように続けていました。
側頭筋の収縮に連動して帽状腱膜が引っ張られ、頭皮全体に牽引力が発生する。これは手で頭を揉むのと全く同じ物理的刺激である。
「全く同じ」と言える根拠がありません。 調べた範囲で見つからなかったのは、次のようなものです。
- 咀嚼時に頭皮へかかる力を実際に測った研究
- その力と、頭皮マッサージで加わる力を比較した研究
一方、次の2つは存在します。当初この記事は「見つからなかった」と書いていましたが、誤りでした。
- ガム咀嚼中の頭皮血流を測った試験(健常男女20名、頭頂部 +44.0%、前頭部 +47.1%、薬理と治療 2022)
- ガム咀嚼習慣と毛髪の太さを比べた横断調査(研究員27名、頭頂部で有意差、アンチ・エイジング医学 2021)
いずれもロッテ中央研究所によるもので、噛んでいる最中の一時的な血流変化と、集団を切り取った関連を見たものです。 実施した当事者が「ガム咀嚼による毛髪に効果を認めた研究成果はまだ出ていません」と書いています。詳しくはこちらの記事に整理しました。
以前この記事は「ガムを噛ませてサーモグラフィーを計測すると顔面の表面温度が上昇する」とも書いていました。筋肉を使えば温度が上がるのは自然なことで、それが頭皮の血流や毛髪の話につながるかは別の問題です。
「重力に抗うポンプ作用」について
頭頂部は心臓より高い位置にあり、血流が滞りやすいという説明も載せていました。そして咀嚼がそこを押し流すポンプになる、と。
このポンプ作用を測った研究も見つけられませんでした。 「毎食しっかり噛むことで1日に何度も頭皮の血が入れ替わる」という記述は、根拠のない推測でした。削除しています。
現時点で言えること
- 頭皮をデバイスで動かすと毛髪が太くなった、という小規模な報告はある(9名、反対側頭皮を対照)
- 側頭筋が帽状腱膜の近くにあることは解剖学的な事実
- その2つをつなぐ研究、つまり噛む刺激が頭皮マッサージと同じ働きをするかを確かめた研究は、見つからなかった
近くにある筋肉が動く、という事実から、マッサージと同じ効果があるという結論は出せません。間を確かめた人がいないからです。
薄毛や抜け毛が気になる場合は、皮膚科やAGA・FAGAを扱う医療機関に相談してください。このサイトは咀嚼に関する研究を紹介する場所で、医療専門職の監修は受けていません。
※この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。
この記事の科学的根拠(参考文献)
Standardized Scalp Massage Results in Increased Hair Thickness by Inducing Stretching Forces to Dermal Papilla Cells in the Subcutaneous Tissue
Taro Koyama, Kazuhiro Kobayashi, Takanori Hama, Kasumi Murakami, Rei Ogawa (2016)
Published in: ePlasty
健常男性9名に対し、マッサージ機器(170rpm)を側頭部の片側に1日4分間、24週間当てた。毛髪の太さは0.085mmから0.092mmへ有意に増加した。独立した対照群はなく、同一人の反対側頭皮を無処置の対照とした被験者内比較である。別途、培養したヒト毛乳頭細胞に機械的伸展を加えたところ、毛髪成長に関わるとされる遺伝子の発現が変化しIL6の発現が低下したが、これは培養細胞での結果であり、被験者で測定したものではない。
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