食事のときによく噛むことが勧められる理由として、食後のエネルギー消費が増えるという説明があります。これを実際に測った研究が、早稲田大学ほかの濱田有香氏・林直亨氏らによって報告されています。
Chewing increases postprandial diet-induced thermogenesis | Scientific Reports https://doi.org/10.1038/s41598-021-03109-x
この記事は以前、この研究について「ダイエット効果をもたらすことが判明」と書き、原著に無い機序の説明を加えていました。2026年8月に原著と突き合わせて書き直しています。
何をどう測ったか
対象は健康な若年男性11名(23±1歳、BMI 21.9±1.5)です。試験食は200mLのココア風味の飲料で、200kcal(たんぱく質7.6g、脂質4.4g、炭水化物31g)。液体食です。
3つの条件を比べています。
| 条件 | やり方 |
|---|---|
| 対照 | 20mLを30秒ごとにそのまま飲み込む |
| 味覚 | 20mLを30秒間口に含み、噛まずに飲み込む |
| 咀嚼 | 20mLを30秒間、1秒に1回のペースで噛んでから飲み込む |
結果:食後90分間のエネルギー消費
食事誘発性熱産生(DIT)は、食後に体が消化のために使うエネルギーです。90分間の累積値は次のとおりでした。
| 条件 | DIT(90分累積) |
|---|---|
| 対照 | 3.4 ± 0.4 kcal |
| 味覚 | 5.6 ± 0.5 kcal |
| 咀嚼 | 7.4 ± 0.7 kcal |
味覚条件・咀嚼条件とも対照より有意に高く、咀嚼は味覚よりも有意に高い値でした(p < 0.05)。
ここで押さえておきたいのは差の大きさです。 咀嚼と対照の差は約4kcal。ご飯ひと口にも届きません。
そして、噛まずに口に含んでいるだけの味覚条件で、すでに5.6kcalまで上がっています。 増加分4.0kcalのうち2.2kcal、半分以上は噛む動作ではなく、口の中に食べ物がある状態そのもので説明がつきます。
内臓の血流について
この研究は超音波ドップラー法で、腹腔動脈(CA)と上腸間膜動脈(SMA)の血流も測っています。
- 腹腔動脈: 対照 −0.7 ± 1.1 L、味覚 5.9 ± 2.0 L、咀嚼 5.5 ± 2.0 L。味覚・咀嚼とも対照より有意に多い(p < 0.05)
- 上腸間膜動脈: 条件間で有意差なし
血流が増えたのは腹腔動脈だけで、しかも咀嚼条件は味覚条件を上回っていません(5.5 対 5.9)。噛むこと固有の効果ではなく、口の中への刺激そのものによる変化と読めます。
以前この記事は「咀嚼回数を増やした条件において血流量が顕著に増加」と書いていました。噛む条件が味覚条件より多かったという事実はありません。 訂正します。
また、機序として「頭部相反応(Cephalic Phase Response)が論文内で指摘されている」とも書いていました。著者らはこの語で議論していません。 削除しました。
論文が触れているのは、上部消化管の運動が味覚と咀嚼によって高まった可能性と、口腔内刺激とヒスタミン分泌の関連です。著者ら自身、機序は完全には分かっていないと述べています。
測定されなかったこと
この研究では、次の項目に有意差が出ていません。
- 空腹感
- 満腹感
- 呼吸交換比(RER)
そして次の項目は測定されていません。
- 体重
- 体脂肪
- 褐色脂肪組織
著者らは結論で「we speculate(推測する)」という言葉を使っています。体重が減ることを示した研究ではありません。
この研究から言えること
- 一口30秒噛むと、食後90分の消費エネルギーが有意に増える
- ただし差は約4kcalで、その半分以上は噛む動作ではなく口腔内刺激で説明がつく
- 対象は健康な若年男性11名、試験食は液体、測定は90分間
- 体重・体脂肪は測っていない。長期の効果は分からない
日々の食事で噛む時間を延ばすことに意味がないとは言いません。ただしその意味は、消費カロリーの増加より、食べ終わるまでの時間が延びることのほうにあります。
なお、このサイトは iOS アプリ MoguExercise の関連サイトです。同アプリは咀嚼回数を計測するもので、この研究の結果を再現するものではありません。
※この記事は情報提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。
この記事の科学的根拠(参考文献)
Chewing increases postprandial diet-induced thermogenesis
Yuka Hamada, Naoyuki Hayashi (2021)
Published in: Scientific Reports
健常な若年男性11名のランダム化クロスオーバー試験。液体食200kcal(カロリーメイト缶)を、そのまま飲む/一口30秒間口に含む/一口30秒間(1秒1回で30回)噛んでから飲む、の3条件で比較した。食後90分間の食事誘発性熱産生は 3.4 → 5.6 → 7.4 kcal と有意に増加し(p<0.05)、胃や肝を灌流する腹腔動脈の血流も味わい・咀嚼の両条件で増えた。ただし腸管側の上腸間膜動脈の血流、呼吸交換比、空腹感・満腹感には有意差が出ていない。咀嚼と対照の差は90分で約4kcal。体重や体脂肪は測定しておらず、著者も肥満予防に役立つ『かもしれない』と推測の形でしか述べていない。
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